ワタルは放課後の数学の補習までの暇な時間を図書館で潰していた。
素朴な風景が瞳に浮かぶ。本をめくる音が耳に響くほどの静かさ。
ワタルは何の本を読もうかと図書館を歩いていた。そこである本が目にとまった。
ワタルはその本を手に取って開いてみた。
「『魔法伝説〜魔法のすべて〜』か・・・。」
古臭い本の匂いが鼻に伝わる。
「それにしても分厚い本だな・・・。5000ページはあるな。」
ワタルはそれをパラパラと読み流した。それでも時間と労力がかかるほどだった。
本の重みが腕にしっかりと伝わってきて挿絵が何ページかに使われてたがほとんど文字。
「何が魔法だ・・・。くだらない・・・。」
「あら、魔法が無いとでも言うの?」
ワタルは女の声に反応し、後ろを向いた。そこには同じクラスメイトのリサがいた。
「何だ、リサか。お前、ファンタジー好きだっけ?」
リサはワタルにとっては女の中では一番仲のいい友達、自分はそうは思ってないが彼女と彼氏という関係までいっているかもしれない友達だった。
「別にそんなに好きじゃないけどっ。じゃあ、もし私が魔法使いだったらどうする?」
リサは口に指をあて聞いてきた。
「いきなり意味がわからないぞ。大体魔法使いなんている訳がない。」
ワタルは少しイライラしながら言った。ワタルはファンタジー小説などが嫌いだった。
なので、クラスでもファンタジー小説を読んでいる者を見つけると、批判の嵐を巻き起こす。
「そうだよね。魔法使いなんている訳ないよねっ。それじゃあ、私は補習だからっ。」
リサはそう言うと全速力で走って補習会場に向かった。
「ま、待てよ。」
ワタルもその後を追いかけて走った。
2分ほど走ると補習会場にたどり着いた。ワタルがドアを空けると補習者の顔がワタルの方に向いた。
冷たい視線がワタルを突き刺した。ワタルは目を合わせない様に下を向いて空席に向かった。
ワタルが椅子に座ると同時にテスト開始の合図が鳴った。補習者は一斉にペンを持ち、再テストに向かった。
だが、ワタルだけは違う。ワタルは筆記用具を忘れて会場に来てしまった。
「くそっ、忘れてた。隣の人に貸してもらうっていってもカンニングとか言われるしな・・・。」
ワタルはそんなことを考えている中に眠気に誘われた。ワタルは、コクンッと首を落としている。
意識が無くなってきて、周りがぼやけて見えてきた。ワタルは周りが完全に見えなくなってしまった。
深い眠りについてしまったのだ。周りはペンを持ちテストに立ち向かっているのにワタルだけ潰れたカエルの様になっていた。
テストが始まって10分くらいするところでテスト終了の合図がなった。その合図と同時にワタルは眠りから目覚めた。
「ふぅ、居眠り終了・・・ん?違う!!しまったテストをやっていたんだ!!」
目の前には真っ白なテスト用紙があった。そして、見上げると先生が立っていた。
「お前は何をやってたんだ?テストをやってたんだよな・・・じゃあ何で白紙なんだ!!!」
先生の怒鳴り声が会場中に響いた。そしてワタルの頭に響いた。
「後で職員室に来い!!!しっかり説教してやる!!!」
先生はそう言うと、テスト用紙を回せなどと怒鳴りつけた。
そして、補習者が先生の怒りに脅えること約5分たったところで解散の合図が出た。
ワタルは職員室に向かいゆっくり歩く。
「あぁ、めんどくせぇことになっちまったな。」
「まぁ、がんばりなって!」
後ろには、リサが立っていた。
「お前、いっつもちゃっかりと人の後ろにいるよな。」
「まぁね、じゃあがんばって。」
リサは下駄箱に向かい走り始めた。
そしてワタルは下駄箱とは正反対の方向にそびえる職員室という地獄に向かい歩きだした。